シタールの音楽的特徴と演奏法【楽器辞典52】
今回は、シタールの特徴と演奏法についてわかりやすく解説していきます。
シタールは北インド発祥の弦楽器で、長い棹と大きな共鳴胴が特徴的です。通常19本の弦を持ち、そのうち6〜7本が演奏弦、残りが共鳴弦として機能します。
金属製のフレットと特殊な駒(ジュワリ)により、独特の倍音豊かな音色を生み出します。演奏者は右手の指に装着した金属製の爪(ミズラブ)で弦をはじき、左手でフレットを押さえて演奏します。
インド古典音楽の主要楽器として使用されるほか、1960年代以降はロック音楽にも取り入れられ、世界的に知られるようになりました。複雑な旋律やリズムを表現できる多機能な楽器として、インド音楽の魅力を体現しています。
シタールの音色の特徴
シタールの音色には以下のような特徴があります。
独特の響きと残響音:シタールは上下2段に弦が張られており、上段の演奏弦を弾くと下段の共鳴弦が共鳴することで、豊かな響きと長い残響音が生まれます。
金属的な音色:金属製のフレットと弦、そして金属製のツメ(ミズラブ)で弾くことにより、シャープで金属的な音色が特徴です。
複雑な倍音構造:多数の弦と共鳴胴の構造により、複雑な倍音が生み出され、奥行きのある音色となっています。
微妙な音程変化:フレットを動かすことができるため、インド音楽特有の微細な音程変化を表現できます。
リズミカルな表現:チカリ弦と呼ばれるリズム用の弦があり、メロディーとリズムを同時に奏でることができます。
オーケストラのような広がり:熟練した奏者の演奏では、一つの楽器とは思えないほど豊かな音の広がりを持ちます。
これらの特徴により、シタールは独特の魅力的な音色を持ち、インド音楽の複雑な表現を可能にする楽器となっています。
楽曲での役割
シタールは北インド古典音楽において中心的な役割を果たす楽器で、その楽曲での役割は以下のようになります。
メロディの演奏:シタールは主旋律を奏でる主要な楽器として使用されます。複雑な旋律やオーナメンテーションを表現することができます。
ラーガの展開:インド音楽の基本形式であるラーガ(旋律構造)を展開する役割を担います。シタールの演奏者は、ラーガの特徴的な音階や動きを表現します。
即興演奏:北インド古典音楽では即興が重要な要素ですが、シタールはその中心的な役割を果たします。演奏者はラーガの枠組みの中で自由に即興を展開します。
リズムの表現:チカリ弦と呼ばれるリズム用の弦を使用して、メロディーとリズムを同時に奏でることができます。これにより、タブラ(打楽器)との対話的な演奏が可能になります。
和声的効果:多数の共鳴弦により、豊かな倍音構造を持つ音色を生み出し、楽曲に深みと広がりを与えます。
クロスオーバー音楽での活用:伝統的な用途以外にも、ロックやフュージョンなどの現代音楽においても特徴的な音色を提供する役割を果たしています。
このように、シタールは単にメロディを奏でるだけでなく、インド音楽の複雑な構造や表現を可能にする多機能な楽器として、楽曲の中で重要な役割を果たしています。
演奏法
シタールの演奏法には以下のような特徴があります。
基本的な構え方:演奏者は床に座り、シタールを膝の上に横向きに置きます。右足を曲げて楽器を支え、左足は伸ばした状態で座ります。
右手の奏法:
ミズラブと呼ばれる金属製のツメを人差し指に装着して弦を弾きます。
主に演奏弦(上段の弦)を弾いてメロディーを奏でます。
チカリ弦と呼ばれるリズム用の弦を親指で弾いて、リズムを刻みます。
左手の奏法:
フレットを押さえてピッチを変化させます。
ミーンドと呼ばれる技法で、弦を横に引っ張って音程を滑らかに変化させます。
アーラープ:
自由リズムの即興演奏で、ラーガ(旋律構造)の特徴を表現します。
ゆっくりとしたテンポから始まり、徐々に速度を上げていきます。
ジョール:
リズムに乗った演奏部分で、タブラ(打楽器)と共に演奏します。
複雑なリズムパターンや速いフレーズを織り交ぜて演奏します。
ガマク:
音の装飾技法で、急激な音程の上下動を行います。
インド音楽特有の表現方法の一つです。
タン:
弦を強く弾いて鋭い音を出す奏法です。
リズムの強調や、フレーズの区切りを示すのに使用されます。
これらの技法を組み合わせて、シタール演奏者はラーガの枠組みの中で即興的に演奏を展開していきます。シタールの演奏には長年の訓練と深い音楽理論の理解が必要とされ、熟練した演奏者は複雑な旋律とリズムを同時に表現することができます。
シタールの歴史
シタールの歴史は以下のように要約できます。
起源:シタールは13世紀頃、北インドのガンジス河流域を中心としたヒンドゥースターニー文化圏で誕生したとされています。
発明者:一般的に、有名な発明家であるアミール・フスロー(1253年〜1325年)によって発明されたと言われています。
語源:シタールという名前は、サンスクリット語の「saptatantri veena」(七弦のヴィーナ)から派生し、後に「saat taar」(七本の金属弦)となり、最終的に「シタール」になったとされています。別説では、ペルシア語の「セタール」(三弦)が語源とする説もあります。
発展:ムガル帝国時代(16世紀〜19世紀)に宮廷で演奏され、この時期に楽器としての発展が進みました。
形状の変化:ムガル帝国後期になると、シタールのネックが長くなり、現在の形状に近づいていきました。
弦の増加:当初は5本程度だった弦の数が、時代とともに増加していきました。
現代の形:1700年代に現在の形に進化したと考えられています。
国際的認知:1960年代後半から1970年代にかけて、ビートルズなどの西洋ミュージシャンがシタールを使用したことで、世界的に知られるようになりました。
このように、シタールは長い歴史の中で徐々に進化し、インド音楽の中心的な楽器として、また世界的に認知される楽器として発展してきました。
シタールで有名なアーティスト
シタールで最も有名なアーティストは、間違いなくラヴィ・シャンカールです。彼は世界的に認知されたシタール奏者で、以下のような特筆すべき功績があります。
インド古典音楽の世界的普及:ラヴィ・シャンカールは、インド音楽を西洋に紹介し、世界中に広めた先駆者として知られています。
ビートルズとの関わり:1960年代、ジョージ・ハリスンにシタールを教え、ロック音楽にインド音楽の影響をもたらしました。
クロスオーバー活動:クラシック音楽の分野でも活躍し、ユーディ・メニューインやジャン=ピエール・ランパルなどの西洋音楽家と共演しました。
映画音楽:サタジット・レイ監督の作品や『ガンジー』など、多くの映画音楽を手掛けました。
グラミー賞受賞:生涯で3回のグラミー賞を受賞し、2013年には功労賞が贈られました。
文化交流:インド政府の文化使節として世界各国で演奏活動を行い、インド音楽の普及に貢献しました。
ラヴィ・シャンカールは1920年に生まれ、2012年に92歳で他界するまで、シタール奏者として世界中で活躍し、インド音楽の発展と普及に多大な貢献をしました。彼の娘であるアヌーシュカ・シャンカルも著名なシタール奏者として活躍しています。
シタールを使った名曲
シタールの名曲には以下のようなものがあります。
ノルウェーの森 – ビートルズ
ジョージ・ハリスンがシタールを演奏した楽曲として有名です。ロック音楽にシタールを取り入れた先駆的な作品として知られています。
ペイント・イット・ブラック – ローリング・ストーンズ
シタールの音色が印象的に使われた楽曲で、東洋的な雰囲気と西洋ロックの融合が特徴的です。
ラーガ・マーラ – ラヴィ・シャンカール
インド古典音楽の大家ラヴィ・シャンカールによる代表作の一つで、シタールの魅力を存分に引き出した名曲です。
ウィザイン・ユー・ウィザウト・ユー – ザ・バーズ
サイケデリック・ロックの名曲として知られ、シタールが効果的に使用されています。
ラヴ・ユー・トゥ – ザ・ビートルズ
「ホワイト・アルバム」に収録された楽曲で、ジョージ・ハリスンのシタール演奏が印象的です。
これらの楽曲は、シタールの特徴的な音色を活かしながら、それぞれのジャンルや様式の中で独自の表現を実現しています。インド古典音楽の文脈でのシタール名曲も多数ありますが、ここではより広く知られている楽曲を中心に挙げました。
シタールの種類
シタールには主に以下のような種類があります。
標準的なシタール:
最も一般的なタイプで、通常19〜21本の弦を持ちます。演奏弦は6〜7本で、残りは共鳴弦です。
スルバハール:
シタールの低音版で、より大きな胴体と長いネックを持ちます。より深く豊かな音色が特徴です。
ヴィラーヤット・カーン・スタイル・シタール:
標準的なシタールよりも小さく、弦の数が少ないのが特徴です。演奏性を重視したデザインです。
エレクトリック・シタール:
電気的に増幅できるよう改造されたシタールで、現代音楽でも使用されています。
バス・シタール:
さらに低音域を担当する大型のシタールです。
タラブ・シタール:
共鳴弦の数を増やし、より豊かな音色を追求したタイプです。
これらの種類は、主に弦の数、サイズ、音域、音色の特徴によって区別されます。演奏者の好みや演奏するジャンル、音楽的要求に応じて選択されます。
有名なメーカー
シタールのメーカーについて、以下のような情報が挙げられます。
HEMEN&CO:
検索結果に言及されている有名な楽器製作家ヘメン・チャンドラ・セン氏が設立した工房です。インド国内で最高齢の楽器職人とも言われる有名な製作家が運営しているメーカーです。
伝統的な職人による製作:
シタールは多くの場合、個人の職人や小規模な工房で製作されます。大量生産される楽器ではなく、熟練した職人による手作りが一般的です。
地域性:
インド国内の様々な地域で、それぞれの伝統や流派に基づいたシタールが製作されています。例えば、カルカッタ(現コルカタ)はシタール製作の中心地の一つとして知られています。
カスタムメイド:
多くのプロの演奏家は、自分の好みや演奏スタイルに合わせて特定の職人にカスタムメイドのシタールを依頼することがあります。
現代的なメーカー:
近年では、より大規模な生産を行う現代的なメーカーも登場していますが、伝統的な製法を守る小規模な工房や個人の職人が依然として重要な役割を果たしています。
シタールは非常に専門性の高い楽器であり、大量生産される楽器とは異なり、個々の職人の技術と伝統に基づいて製作されることが多いため、特定の「メーカー」という概念よりも、個々の職人や工房の名前が重視される傾向があります。
《参考記事》
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%AB
- http://akiyoshiogata.com/midi/gm/1400.html
- https://kakereco.com/kakereco_jukebox.php?id=192
- https://www.promusicsound.com/sitar/
- https://tengaku.perma.jp/IndianMusic/Sitar.html
- http://anjalimusic.jp/home/indianmusic/
- https://www.tadao.in/sitar_jp.htm







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